Prometheusのrate関数は、特定の時間範囲内でのカウンタ型メトリクス(累積値)の増加率を計算するための関数です。主に、カウンタのように増加し続けるメトリクスを監視する際に使われます。
基本的な構文
rate(<metric>[<duration>])
• <metric>: カウンタ型メトリクス(例: HTTPリクエスト数など)。
• <duration>: 計算に使用する時間範囲(例: 5mは5分間、1hは1時間)。
概念
• カウンタ型メトリクス: これらは増加し続けるか、再起動やロールオーバー時にリセットされるデータ(例: リクエスト数、エラーカウントなど)。
• rate関数は、指定した時間範囲内のデータポイントを取り、リセットやジャンプを考慮してスムーズな増加率を計算します。
例
使用例
例えば、HTTPリクエストカウントメトリクス http_requests_total がある場合:
rate(http_requests_total[5m])
これは、過去5分間に観測されたHTTPリクエスト数の増加率(秒あたりのリクエスト数)を返します。
計算の流れ
1. 指定した時間範囲(例えば5分間)のメトリクスデータを取得。
2. カウンタのリセットやロールオーバーを考慮して、値の変化量を計算。
3. その変化量を時間で割って、1秒あたりの増加率を算出。
注意点
1. リセットへの対応:
カウンタがリセットされた場合(例: アプリケーション再起動)、rate関数はリセットを検出して適切に計算を続行します。
2. irateとの違い:
• rateは時間範囲内での平均増加率を計算します。
• irateは直近2つのデータポイント間の増加率を計算します。
3. 非カウンタメトリクスに使用しない:
rateはカウンタ型メトリクスに特化しています。ゲージや他のタイプのメトリクスでは期待通りに動作しない可能性があります。
実用例
• 秒あたりのリクエスト数:
rate(http_requests_total[1m])
• エラー率の監視(エラーカウンタの増加率):
rate(http_errors_total[5m])
• 帯域幅の使用量(データ転送量カウンタ):
rate(bytes_sent_total[10m])
rateは、Prometheusのメトリクス分析で非常に頻繁に使用される重要な関数の一つです。
Prometheusのincrease関数は、指定された時間範囲内でのカウンタ型メトリクスの累積増加量を計算するための関数です。rateが増加率(1秒あたりの平均増加)を返すのに対して、increaseは総増加量を返します。
基本的な構文
increase(<metric>[<duration>])
• <metric>: カウンタ型メトリクス(例: HTTPリクエスト数など)。
• <duration>: 計算対象の時間範囲(例: 5mは5分間、1hは1時間)。
概念
increaseは、指定した時間範囲内でメトリクスの累積値がどれだけ増加したかを計算します。この際、カウンタのリセット(再起動やロールオーバーなど)も適切に考慮します。
使用例
HTTPリクエスト数の総増加量
例えば、http_requests_totalというカウンタメトリクスがある場合:
increase(http_requests_total[5m])
これは、過去5分間にHTTPリクエストが何回発生したかを返します。
データ転送量の増加
例えば、bytes_sent_totalというデータ転送量を記録するカウンタメトリクスに対して:
increase(bytes_sent_total[1h])
これは、過去1時間で送信されたデータの総量(バイト数)を返します。
計算の流れ
1. 指定した時間範囲(例: 5分間)のメトリクスデータを取得します。
2. カウンタの値の変化量を計算します(リセットがあれば補正)。
3. 総増加量を結果として返します。
リセットの例
もしメトリクスが途中でリセットされていた場合でも、リセット前後の値を考慮して正しい増加量を計算します。
例:
• データポイント: 100 -> 0(リセット)-> 20
• increaseは、増加量を (100 + 20 = 120) と計算します。
rateとの違い
機能 rate increase
返す値 増加率(1秒あたりの平均増加量) 増加量(指定時間内の累積値)
用途 パフォーマンスモニタリング(秒あたりの処理数など) 実際のカウント(イベントの総数など)
出力単位 元のメトリクス単位/秒 元のメトリクス単位
実用例
秒あたりのリクエスト数(rate)
rate(http_requests_total[5m])
→ 1秒あたりの平均リクエスト数。
指定期間のリクエスト総数(increase)
increase(http_requests_total[5m])
→ 過去5分間で発生したリクエストの総数。
使用例(ネットワークモニタリング)
• 帯域幅の使用量(送信されたデータ量):
increase(network_out_bytes_total[10m])
• ログエラー数の増加:
increase(log_error_count[1h])
注意点
1. カウンタ型メトリクスのみ対象:
カウンタ以外(例えばゲージ)に使うと期待通りに動作しないことがあります。
2. リセットへの対応:
メトリクスが途中でリセットされた場合でも、それを考慮して正しい増加量を計算します。
3. リクエスト間隔に依存:
increaseの計算は、Prometheusのサンプリング間隔に基づくため、サンプリングが疎すぎると結果が正確でない場合があります。
Prometheusの監視で、特定の期間のイベント数やデータ量を把握したいときにはincreaseが便利です。
トラフィックスパイク(突然のトラフィック増加)を検知するためには、Prometheusやそのアラートシステムを活用して、トラフィックの異常な急増をリアルタイムで把握する設定を行うことができます。以下にその方法を詳しく説明します。
1. PromQLクエリでスパイクを検出
スパイクを検知するには、トラフィックの増加率や総増加量を監視し、それが通常の値を超えた場合にアラートを発する仕組みを構築します。
例: 秒あたりのリクエスト数
rate(http_requests_total[1m])
• このクエリは、過去1分間のHTTPリクエスト数の平均増加率(秒あたり)を返します。
• スパイクが発生した場合、この値が急激に上昇します。
2. アラートルールを設定
アラート条件
スパイクを検知するには、以下のような条件を定義します。
• しきい値を超えた場合にアラート: 一定の値以上の増加率が観測されたらアラートを発する。
• 通常のトラフィックパターンからの逸脱を検出: ヒストリカルデータと比較して異常値を検知する。
アラートルールの例
以下は、リクエスト増加率が100リクエスト/秒を超えた場合にアラートを発する例です。
groups:
- name: traffic_spike_alerts
rules:
- alert: TrafficSpikeDetected
expr: rate(http_requests_total[1m]) > 100
for: 1m
labels:
severity: warning
annotations:
summary: "Traffic spike detected"
description: "The request rate has exceeded 100 req/s in the last minute."
• expr: アラートの条件式。
• for: しきい値を超えた状態が継続する時間。
• severity: アラートの重要度。
• annotations: アラートに添付する説明情報。
3. 異常検知を自動化する方法
平均値との比較
ヒストリカルデータを基準にして、通常の平均値からの逸脱を検知します。
rate(http_requests_total[1m]) > (avg_over_time(rate(http_requests_total[1m])[1h]) * 2)
• 過去1時間の平均値の2倍を超えた場合にスパイクと判断。
分散を考慮する(標準偏差)
トラフィックの分散を考慮したアプローチも有効です。
rate(http_requests_total[1m]) > (avg_over_time(rate(http_requests_total[1m])[1h]) + 2 * stddev_over_time(rate(http_requests_total[1m])[1h]))
• 過去1時間の平均値に2倍の標準偏差を加えた値を超えた場合にスパイクを検知。
4. Grafanaで可視化
PrometheusのデータをGrafanaで可視化することで、スパイクの発生を視覚的に把握することができます。
• リアルタイムグラフを作成して、リクエスト数や帯域幅の増加率をモニタリング。
• アノテーション(スパイク発生時に記録)を活用してタイムラインを追跡。
5. トラフィックスパイクに伴う追加対策
高頻度サンプリング
スパイクを迅速に検知するために、Prometheusのスクレイピング間隔を短く設定(例: 15秒)。
自動スケーリング
トラフィックスパイクに応じて自動的にスケールアップ/スケールダウンする仕組みを導入します。
• KubernetesのHPA(Horizontal Pod Autoscaler)とPrometheus Adapterを連携。
ログやトレースの分析
スパイクの原因を追跡するため、トラフィックログや分散トレーシングツール(例: Jaeger、Zipkin)を活用。
これらの方法を組み合わせることで、トラフィックスパイクの検知と対応を効率的に行うことができます。
Prometheusのrateとirateはどちらも、カウンタ型メトリクスの増加を分析するために使われますが、目的や計算の仕方が異なります。それぞれの違いを詳しく見ていきましょう。
rate
概要
• 時間範囲全体での平均増加率を計算します。
• 時間範囲内のすべてのデータポイントを考慮します。
主な特徴
• 時間範囲全体を基にした安定した結果が得られます。
• スパイクや一時的な変動が平滑化される。
• 長時間のトレンド分析に適しています。
使用例
rate(http_requests_total[5m])
• 過去5分間のHTTPリクエスト数の増加率(秒あたり)を平均して返します。
irate
概要
• 直近の2つのデータポイント間の増加率を計算します。
• 一番新しいデータに基づいて瞬間的な増加率を出します。
主な特徴
• リアルタイム性が高いデータを提供。
• スパイクや短期間の急激な変動を検出するのに適している。
• 短期的な挙動の監視やトラフィックスパイクの検知に有効。
使用例
irate(http_requests_total[5m])
• 直近5分間の最後の2つのデータポイントを基に、HTTPリクエスト数の瞬間的な増加率(秒あたり)を計算します。
rateとirateの違いを比較
特徴 rate irate
計算範囲 時間範囲内の全データポイントを考慮 直近2つのデータポイントのみを考慮
結果の特性 平均値でスムーズ 瞬間的な変化を反映
用途 長期的なトレンドや安定したモニタリング スパイク検出やリアルタイムの変化監視
リアルタイム性 中程度 高い
スパイク検出 平滑化されるため適さない 短期間の急激な変化を捉えやすい
使い分けのポイント
1. スパイクを検出する場合
• 短期間のトラフィック急増(スパイク)を検出するにはirateを使用します。
• 例:
irate(http_requests_total[1m])
2. 長期トレンドを分析する場合
• トラフィックの平均的な増加率や安定したデータを監視する場合はrateを使用します。
• 例:
rate(http_requests_total[5m])
3. アラート設計
• 一時的なスパイクを検知してアラートを発生させる場合はirate。
• 一定時間持続する増加を監視してアラートを発生させる場合はrate。
実用例
リアルタイムスパイク検知
irate(http_requests_total[1m]) > 500
• 直近のトラフィック増加率が500リクエスト/秒を超えた場合。
安定したトレンドの監視
rate(http_requests_total[5m]) > 300
• 過去5分間の平均リクエスト数が300リクエスト/秒を超えた場合。
まとめ
• rate: 長期的で平滑化された増加率(安定した監視やトレンド分析向け)。
• irate: 直近の瞬間的な増加率(スパイクやリアルタイムの変動検出向け)。
必要な分析や監視目的に応じて使い分けると効果的です!